太りたい?


テレビを見なくとも、新聞を読まなくとも、世の中の動きを感じることは出来る。

わごいちに来る人の口から、体から、そしてハラから今の世の中の動きを読むことができる。ここ数年目立って増えている相談は「太りたい」だ。

「太りたい?ぶよぶよの体になりたいの?」と聞くとそうじゃない。「脂肪だけじゃなくて筋肉も付けて、肉厚のある健康的な体になりたい」のだそうだ。そしてその為に「食べたものをどんどん吸収できる強い内臓を手に入れたい」のだそうだ。

女性も多いが、20代~30代のそういう男性が増えている。

そう考えてみれば、最近この大阪の本町でもスポーツジムがやたらと増えている。だいたい15年遅れで東京がアメリカの後を追い、5年遅れで日本各地が東京を追う、というのが私の持論であるが、ようやく日本全国がそういう流行になってきたのかもしれない。

「とにかく体を大きくしたい。そうすれば何かが変わるかもしれない。いやきっと変わる。自分が変わる。自分に自信が持てるはず。」

若者たちのハラに触れていると、そんな声が聞こえてくる。



沖縄からやってきた20代の男の子。先月来た時は、ロート胸、不整脈、下痢などが気になると訴えていたが、それらはそれほど心配ないよと話をしたら、一番の関心事は「太りたい」であることがわかってきた。

ジムに通い、サプリを飲み、とにかく体を大きくしようと努力している。10代の時に体が大きい友人たちを羨ましく見ていた自分を乗り越えるため、なんとか体を大きくしたいと願っている。「まず沢山食べて太って、それから鍛えて脂肪を落としていくのが理想的だ。」とジムのトレーナーにそう言われて、沢山食べようとするけれども、そうすると下痢をしてしまう。これは内臓が弱いんじゃないか、と思ったらしい。

それでわごいちにやってきた。

ハラを触ると、それほど問題があるわけじゃない。というよりも問題はない。ただ消化力を越えて食べ過ぎている事と、食べている内容がレトルトばかりなので、それが炎症を起こしていると話した。そんなに無理にたくさん食べても逆効果であると、そして何よりお米を炊いてご飯を食べよと、そういう話をした。

現代日本人はどうもお米を軽視する。糖質制限とか日本人のDNAを無視するようなことをやったり、赤身の肉ばかり食べたりとかしたほうが良いと勘違いしている人が多い。内臓の事を知らないトレーナーたちが勝手なことばかり言うもんだから、素人さんが勘違いするのも仕方がない。

その男の子が2回目に沖縄からやって来た時、お米を炊いて自炊する頻度が週に2,3回に増えたと言っていた。面倒くさいことは大嫌いらしいが、太るためなら頑張れるのだろうと思うと変に感心した。なによりその為だけに沖縄から大阪にやってくる熱意は買わねばならない。

その一方で、食べ過ぎない方が良いという私のアドバイスに関しては、なかなか理解できないようだ。食べ過ぎて胃炎や腸炎を増やしたら消化力吸収力が落ちるだろうというのは、子どもでもわかる理屈であると思うのだが、「食べる=太る」という思い込みの呪縛はなかなか解けない。

「ハラはそんなに悪くないし、食べ過ぎなければ調子よくなるんだから、通う必要あるかな。単に太りたいだけならば僕はあまりみたくないなあ。ちゃんと僕の言うことを信じて実践するなら、期間限定で通うのもいいけどね。その辺よく考えてきて。」

と伝えて2回目の整体は終わった。ぼんやりしている印象だった。

太るというのは、おそらく彼にとって最終目的にはならない。太りたいという願望の根底にあるもの、本当に彼に欠けているもの、それを見つけなければならないはずだけど、それがぼんやりとしているのだろう。そこに到達するにはまだ時間がかかるのかもしれない。




「胃が慢性的にもたれて苦しい。以前から病院で薬をもらって痛みをおさえている。でも治りはしない。」「腰が慢性的に痛い。」そして「太りたい」と言って8か月前から通い始めたのは、大阪の30代の若社長。

「お肉と油料理を控えなさい。」「腰の痛みは内臓からきているよ。胃腸と腎臓が傷んでいるね。」「太りたいならまずお肉と油を控えて、体を鍛えることだね。」と世間の常識からみると???なことばかりを言われた彼は、それでも治りたい一心で月に2回の通院と生活改善を続けてきた。

経営者である父親の突然の他界で、心の準備もないままの社長就任。それなのに痛む内臓と腰に体力と気力が削がれて困っていた彼は、とにかく私を信じて徐々に、しかし着実に生活改善を進めてきた。

わごいちで触れる度に、彼のハラは弾力をとりもどしている手応えがあった。胸板も厚くなっていく。「調子はどう?」「良くなっていっています。」という会話を繰り返すなかで、おそらく彼の中でもこれでいいという確信が深まってきたし、私も彼の、そして彼の家族と会社の助けになりたいという気持ちはより強まる。

「これはとっておきやで」と彼を見込んで、特別な丹練法を伝えたのは昨年末くらいだろうか。もうこの頃には胃の不調はほぼ完治までたどり着き、腰痛もなくなり、胸回りががっしりとしてきて、見るからに逞しい姿になってきた。面白いもので体が強くなると表情にも声にも力が付いてくる。

1年も経たずに彼はすっかりと変わってしまった。もう不調なんて気にならない。太れないなんて悩みはない。これをすれば体が強くなるという自信を手に入れている。






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別にわざわざジムに行かなくとも、毎日15分も丹練すれば筋肉はついてくる。




最後は東京の若者。

やはり「太りたい」と言ってはじめてわごいちに来たのは、1年くらい前だろうか。

「ジムに行ってもいいけど、自分で努力できんからといってジムに頼るようでは、結局なんにもならんで。家で腕立て伏せを毎日することから始めたらいいんとちゃうか。」

やはり彼も胃腸がわるいから太れないんじゃないかとおもってわごいちに来たわけだけど、内臓はなんにも問題がない。問題は違うところやろ、と言われてへこんで帰ったのだけど、それから毎月きっちり山水を受けに来る。

そんな彼が先月来た時に言う。

「引っ越しして会社から徒歩40分になったんです。」「よかったやん。じゃあ行き帰り歩いてるんや。」「いえ、まだ寒いので暖かくなったら歩こうと思ってます。」

「お嬢か!!!!」

と思わず突っ込んでしまった。「今、歩かんでどうすんねん。暑かろうが寒かろうが歩くんや。それが大事なんやろ。」というと彼はびっくりへこんでしまった。

「あんな、」と続けた。

「あんな、良いこと教えたるよ。単に歩くだけじゃもったいないからな、今日帰ったらな、スーパーで水を買うんや。2リットルのペットボトルを2本な。それをリュックに入れてな、仕事道具と一緒に背負ってな、毎日それで出勤するんや。」「それでな、その水は飲むんやないで。封を開けずに会社まで運んで、封を開けずにまた家まで帰るんや。開けんまま毎日毎日通勤するんや。」

それを聞く若者のハラが硬くなる。

「周りの目を気にしたやろ。ええねん、ほっといたら。もし笑ったりバカにするやつがいたら、心の中でこう思ったらいいねん。こいつにはこの200円のペットボトルの本当の価値がわからんのや、とな。」

ハラが少し反応をする。

「僕が言いたいのは、本当に大事なことは何かという事や。家でこたつでぬくぬくしながら自己啓発本よんでいる奴と、黙々と水を4キロ背負って通勤する奴とどっちが将来ものになるか、という話や。見てる人は必ず見てる。そういう人は必ずいるから。」

別に特に不調もない若者が、どうしてわざわざ東京から大阪まで毎月わごいちに通ってくるのか。毎月私に会いに来る。ハラを見せに来る。そんな誠意もまた意味がある。

おそらく今の彼の周りには彼を深く導く人間がいない。その人間が現れるように私は彼を導く。その人間が現れるまで。





愛刀と丹錬の後。

私は別に筋肉が欲しくて丹錬をしているわけじゃない。

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何が大事なのか、が見えない時代である。だから人達はわかりやすいものに惹きつけられる。

自分には何かが足りないから、違うもので埋め合わせてごまかそうとする。なぜ太りたいのか。なぜ若く見せたいのか。なぜ人の目がそんなに気になるのか。

自分のハラにきいてみたらどうだろう。














三宅弘晃

080.gif今日の丹練
・四股300丹
・木刀300丹


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by wagoichi | 2017-03-05 16:31 | 教育