照千一隅への道のり

ちょっと一休みの「考えない旅」


「10時から仕事のお手伝いに生徒さんたちが来てくださるから、それまでに家を出てね。」と妻に言われたのは、昨日の朝の出来事。週に一度の定休日は、妻が大雪で置きざりにしてきたマイカーを回収するために滋賀まで行くことになっていた。

ばたばたと来客を迎える準備をしている妻が「コーヒーでもいれましょうか?」と聞いてくる。「いや、忙しそうだから僕のコーヒーにつき合わせるのは悪いよ」と言うと、「私は手が離せないから、あなたの分だけコーヒー入れるわ。」と言う。やれやれ、これは早く家を出た方がよさそうだ。「ありがとう。そろそろ行くよ。」

妻の尻に敷かれる気弱な亭主を装ってみたくなるほどになぜだか弾む心を落ち着かせ、滋賀県へのおつかいに出発した。



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久々の路線バス、そしてJRを乗り継ぎ滋賀を目指す。

今回のミニ旅のテーマを決めてみた。「考えない」というものである。というのは、最近ふと「俺はどうしてこうもいつも仕事のことばかり考えているんだろう」と疑問に持つことが増えてきたからだ。仕事中はもちろん、ご飯を食べている時や電車に揺られている時や寝ている時でさえ、いつも仕事のことを考えている。体のこと、そして人間のこと、さらに社会のことを。

昔の自分はこうではなかった。学生時代はいつもぼーっとしていた。「三宅君はいつもぼーっとしているね。」とよく言われるくらいに間違いなくぼーっとしていた。なのにこの仕事をはじめてから自分は変わってしまった。幼い子どもと二人で風呂に入っている時にもついつい癌の施術をどうしようかなどを考えてしまい、しらーっとした目で子供が私を見ていることがよくあった。とにかく私はこの15年で随分変わってしまった。

こうやって一心に15年間考え続けてきたからこそ今がある。誰よりも考えてきたから誰も知らない発見を得てきた。それはわかっているが、そろそろそのスタイルも終点に到達したかもしれないと感じることが出てきた。ここまで骨の髄まで叩き込んできた「考えること」を極力なくしていくことが、行き切ったうえで本来の自分の「ぼーっと」に戻ることが、むしろ次の段階に繋がるのではないだろうか、と。



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しかし改めて「考えない」を試みるとこれが意外に難しい。どの電車に乗れば早く目的地に着けるか。速さだけじゃなく電車の込み具合も勘案して、ベストチョイスを無意識に探している自分を発見する。油断すると頭のどこかで自動的に行程を計算していることに気付く。「だから今日は考えないんやって!」と自分の頭に言い続けて電車を乗り継ぐ。「南の島で女性に働かせてのんびり木陰で寝ているあのおじさんの境地になるんだ!」と何度も何度もイメージして言い聞かす。

それでも自動的効率探求システムがあまりにもしつこく動き出してしまうので、そういう時は戒めとしてその度に乗り換えの電車をわざと見送った。「ああ、いっちゃった。」と一人ホームに残って電車を見送りながら写真を撮っていると、完全な鉄道マニアの完成である。ともあれ結局1時間で行けるところが2時間かかったのだが、結果的にそれが意外に快感なのはひとつの発見でもあった。





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滋賀は週末の名残雪でまだまだ真っ白。「線路は続くよどこまでも」いやいや続かないよ。いつか途切れるんだよ。人生と一緒だよ。とつぶやいてああまた!とこんなところまで説教臭い自分にうんざりする。

罰として、最後は電車ではなく歩行へ乗り換えることにした。目的地までどれだけかかるか分からない。道も全く分からない。最近覚えたスマホの地図アプリを使えば丁寧に案内してくれるが、もちろん使わないことにした。街の地図と町の人に尋ねながら、目的地を目指すのである。見知らぬ土地で目的地につけるのか。出発前から軟骨再生中の足首がズキズキと痛んでいたが「今日は何も考えない」と繰り返す。そうするとなんだか嬉しくて、ズキズキがドキドキに変わった気がした。



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雪中のネギ、うまそうだな。ネギや白菜は雪をかぶると甘みが増すと聞いたな。食べたいな。かじりたいな。この農家の人に出会わないかな。そしたら一本分けてくれませんかとお願いできるのに・・・なんて思って歩いていたら、案の定いきなり180度真逆の方向に歩いていた。田舎は歩いている人なんてほとんどいないから道を聞くことさえできない。歩く人がいないからだろう、地図なんてどこにもみあたらない。

まずスタート地点の駅からして、大阪の駅なら必ずある近辺地図さえない。歩くということを想定していないのであろう。いや、地図なしであるくというバカな人間を想定していなのだ。ああ、バカで結構。バカって快感。それでもたまに出会う人に親切に道を教えてもらいながら進んでいく。いいぞ、考えない旅らしくなってきた。

結局2時間歩いた。




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不思議な電信柱の反射鏡だなと。そうか、ここらは雪が深いから、電信柱が雪に埋もれても大丈夫なように上にも反射鏡をつけているんだとひとり合点。そういえば昔の新潟の線路保安員は、電柱についているカマキリの巣の高さをみて、その年の冬の積雪量を予測しているという田中角栄さんの話を思い出し、カマキリも人も自然に生きる人の知恵は偉いなあ、凄いなあ、こういう知恵を自分ももっと・・・と思って、いかんいかんまたなんか仕事への連想をはじめている自分を戒める。

「考えない道」は思いのほか険しい。





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野洲川。

「水はさやかに美しく、空のように青く、限りなき美に、ドナウは満ちる。」

なぜか滋賀の奥深くでドナウ川の歌を口ずさみ、ちょっと考えない旅に手ごたえを感じた。








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水口城。

半分溶けた堀に逆さに写る櫓。ああ、熊本城を思い出す。地震の再建はどのくらいまで進んでいるんだろう。現代に無用の長物は、守り伝えようという取り組みそのものが我々の財産になってくれているのかもしれない。

ほらまた色々考えようとする。なぜこの美しさをそのまま味わえないのか。

やっぱり仕事を考えないのは難しい。





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せっかくなのでお城の橋桁に手形を残してきた。

だんだん溶けて最後に消えるのがいいんだ。



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雪の重荷が溶けていく椿。

雪に震えるわが身の不幸を嘆かぬ自然。嘆くエネルギーがあるなら、雪の重みと冷たさに耐えるために使う。純粋に命を残すためだけに使う。生きるためだけに使う。だから枯れない。余計なことを望んで嘆いて消耗するのは人間特有の愚かさではなかろうか。。。。

ほらまた!








この後マイカーを無事回収して、義父とランチを。

数年前に肺がんと言われて、一切の治療を拒否して奇跡的に完治させた義父。全てにおいて一気に気弱になっていた当時から数年の時を経て、また強い義父が戻ってきつつある。良くも悪くもあるが、今はありがたく見守りたい。



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滋賀からの帰り道。

美しい一日だった。妻がくれたプレゼントだったのかもしれない。





帰り道にちょっと気になって京都に住む実の両親の顔も見てきた。

家事と介護ヘルパーの仕事をしながらほぼ毎日のように息子(我が弟)に手料理を届けている母はさすがに疲れていた。背中をさすりながら「大丈夫?」と訊くと、はじめて聞く昔話を聞かせてくれた。

母が物心つく前のこと、多分2歳とか3歳の時に腸カタルか何かの伝染病で入院し、命が危うい時があったそうだ。母の祖母は4人も娘がいる一番下の子だから諦めてもいいんじゃないかと言っていたそうだが、腹を痛めて産んだ母親はそうはいかず必死で看病してくれ、病院への治療費が払えないからと鶏をつぶして医者に届け、病室には沢山のホオズキで壁に飾り付けをして一生懸命励まして看病してくれたという話を、母は成長してから姉達に聞かされたらしい。

「私も一生懸命護ってもらったから、今そのお返しの時が来たのよ。」

と母は言った。





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物心ついてからの恩さえ忘れがちなのに、物心つく前の恩を大事に後に繋いでいこうという母親の凄みを垣間見た気がした。そしてこの母の遺伝子を継いでいるということが励みになる。

父とも久しぶりにゆっくりと話をした。さすがわが父だけに気難しいところも多々あるが、昔から親兄弟のことを語る瞳はいつも情愛に溢れていた。この不器用ながらも情愛に溢れた父母の命を繋いでいることを改めて自覚した。



とうとう「考えない一日旅」は終着駅についたようだ。持って行った酒を両親はことのほか喜んでくれた。



今日積もっていた雪は真っ白で綺麗だった。でもはじめて降った雪ではないであろう。何十万年と繰り返して降り続けてきた雪の歴史の刹那であろう。

私たちもまたそうであろう。










三宅弘晃

080.gif今日の丹練
・四股500丹


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by wagoichi | 2017-01-20 00:50 | 日常
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「原点が導くこれから」という感じでしばらく探り書きです。

by 三宅弘晃
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